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★柳家小さん(五代目)三人無筆(さんにんむひつ)

   

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1966年(昭和41年)録音
三人無筆は古典落語の演目の一つ。原話は、明和9年に出版された笑話本・「鹿子餅」の一遍である『無筆』。元々は『向こう付け』という上方落語の演目。別題は『帳場無筆』。主な演者として、東京では柳家一琴や7代目立川談志、上方では3代目笑福亭仁鶴、4代目桂塩鯛などがいる。

昔の読み書き事情

無筆:読み書きが出来ないこと。文盲(もんもう)。
かつては、読み書きの出来る人は代筆に重宝されるか、上記のようにこき下ろされるかのどちらかだった。そんなご時勢が読み書きを重視し、教えるようになったのは享保年間の事。最盛期である文政年間には、江戸中に約千件は寺子屋があったらしい。
江戸時代末期には地方にも寺子屋は広まり、農民の子供でも手習いを受けることができるようになったものの、それでも多くの庶民が十分な読み書きができるようになったとは言い難かった。

1881年(1872年の「学制」発布から9年後)の長野県北安曇郡常盤村の記録では、自分の姓名すら書くことのできない村民が全村民の内の35.7%、自分の姓名は書けるが出納帳簿の記入や手紙の作成などの実用的な読み書きはできない村民が41%ほど、姓名を書くことに加え出納帳簿の記入もできる者が14.4%、書簡や証書の作成以上の複雑な読み書きができる村民が8.9%ほどであった。よって、明治時代前期(寺子屋が普及していた江戸時代後期に少年期を過ごした人が多かった時代)でも、ある程度実用的な読み書きができるのは村民の内の2割弱程度であった。
また、鹿児島県や青森県などの僻地では識字率は低い傾向にあった。
歌舞伎役者、片岡仁左衛門家の家の芸「桜鍔恨鮫鞘」(「おつま八郎兵衛」または「鰻谷」)は、死を覚悟した字の読めない母親が娘に口移しで遺言を教える場面があり、当時の読み書き事情を伺うことができる。

あらすじ

大工の八五郎が、散歩から帰ってくると、女房が突然大騒ぎする。

何があったのかとくと、なんでも日頃八五郎のことを可愛がってくれていた、十一屋のご隠居が亡くなったために店の者が八五郎を捜して訪ねてきたらしい。
事態は把握した八五郎だったが、どうしたらいいのかわからずとりあえず妻から悔やみの文句を教えてもらい、通夜に向かう。

その後、お店のお通夜に行っていた八五郎が、なぜか物凄い形相で帰ってきた。

「夜逃げするぞ! 草鞋を支度して、代えの蝋燭を五・六本…」

パニック状態の八五郎を何とか鎮め、女房が事情を尋ねると…?

「明日の葬式でな、帳付(記帳係)を頼まれちまったんだ」
「あら、良いじゃないか。雑用させられるより楽だし、羽織を着て帳場に座っていると貫禄が出るよ」
「”貫禄が出る”って…俺は字なんぞ書けねぇんだよ!!」

そうだった。八五郎は腕のいい大工だが、字は読むことも書くことも出来ない。
《顔の広さ》を買われて抜擢された役だが、このままやったら大変なことに…。

「だから逃げるんだ!」と大慌ての八五郎に、呆れた女房はある秘策を授けた。

「帳付をするのは、お前さん一人じゃないんだろ?」
「あぁ。確か、源兵衛さんも一緒だ…」
「だったら、源兵衛さんに帳付けをやらせちゃえばいいんだよ」

帳場の周りを掃除して、半紙を綴じて帳面を作って。お茶を沸かして、墨をすって…。
あらゆる準備をした上で、後からやってくる源兵衛さんに事情を話し、帳付を押し付けてしまおうというわけだ。

翌朝、まだ暗い内に寺へ駆け込んだ八五郎だが…なぜかすべての準備が整っている。
首をひねる八五郎に、奥から出てきた男―源兵衛が声をかけた。

「エヘヘ、帳付をお願い…」

実は源兵衛も無筆。困った二人は、『仏の遺言で帳面はめいめい付け』と言うことにして、客に書かせようと考えた。

「エー帳面は、めいめい付け、向こう付け、やたら付け…」

漬物屋の売り声みたいな事を言う。そうこうしている内に、占いの先生がやってきた。
その先生に代わってもらい、何とか帳付は終了。いざ帰ろうとすると、建具屋の半次がやって来る。

「さっきまで吉原にいたんだけど、女が離してくれなくて…」

寺で惚気を言うような、この頓珍漢な男も実は無筆。困った八五郎と源兵衛が、相談の末だした結論は…?

「半次は葬式にこなかったことにしよう」

上方での演出

上方におけるこの「三人無筆」にあたる噺である「向こう付け」では、喜六(上方での「八五郎」のポジションの人物)が帳場の仕事を引き受けてしまうようになる成り行きも描かれており、「悔やみ」のやり方も分からないために妻に教え込まれるが、ご寮人のところへ行ったら内容がうろ覚えになってしまい、家で教わったことを全て伝えてしまう、というくだりがある。また、最後に登場する無筆の男も知り合いではない普通の送り手になっている。

また、上方には見台があるため、帳付けのやり方も江戸とでは違いがある。

無筆の小噺

かつては、職人衆は字が読めない・書けない事が当たり前だった。それどころか、なまじ読み書きができると、かえって嫌われてしまうご時勢であり…。

読み書き
「留の野郎、字が書けるらしいぜ?」
「ナヌ!? それは嫌な野郎だな」
「おまけに、算盤も出来るらしいんだ」
「算盤も? だから仕事がまずいんだ。あいつとは、生涯付き合いをしねぇぞ!」

本名
「この辺に、『山田喜三郎』という方はおりませんかな?」

「『喜三郎』? 侍みてぇな名前だな。 おい、キサッペ、この辺に『山田喜三郎』っていう人はいるかい?」
「『喜三郎』?サーテ、そんな野郎はここに…。俺だ!」
「ナヌ!?」
「死んだ親父が言ってたんだ。俺の本名は、『山田喜三郎』って言うんだって…」

「おーい、キサッペのことなんだけどよ」
「何だ? あいつ、何かやったのか?」
「そうじゃねぇんだけどよ。あいつの本名は、『山田喜三郎』ッて言うんだと!」
「アヒャー、そんな”悪党”か…」

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 - 柳家小さん(五代目)

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