立川談志/五人廻し
2020/11/24
上方ではやらないが、吉原始め江戸の遊廓では、一人のおいらんが一晩に複数の客をとり、順番に部屋を廻るのが普通で、それを「廻し」といった。
これは明治初めの吉原の話。
売れっ子の喜瀬川おいらん。
今夜は四人もの客が待ちぼうけを食ってイライラし通しだが、待てど暮らせど誰の部屋にも一向に現れない。
宵にちらりと見たばかりの三日月女郎などはまだかわいい方で、これでは新月女郎の月食女郎。
若い者、といっても当年四十六になる牛太郎の喜助は、客の苦情に言い訳するのに青息吐息。
最初にクレームを付けたのは職人風のお兄さん。
おいらんに、空っケツになるまでのみ放題食い放題された挙げ句、思わせぶりに「すぐ来るから待っててね」と言われて夜通し、バターンバターンと草履の音がする度に今度こそはと身を乗り出しても、哀れ、すべて通過。
頭にくるのも無理はない。
喜助に散々毒づいた挙げ句、モモンガ-、チンケント-、脚気衝心、肺結核、発疹チフス、ペスト、コレラ、スカラベッチョ、まごまごしゃあがると頭から塩ォかけて食らうからそう思えと言いたい放題。
ほうほうの体で逃げだすと、次は官員らしい野暮天男。
四隣沈沈、空空寂寂、閨中寂寞とやたら漢語を並べ立てて脅し、閨房中の相手をせんというのは民法にでも出ておるのか、ただちに玉代を返さないとダイナマイトで……と物騒。
平謝りで退散すると今度は通人らしいにやけた男。
黄色い声で、このお女郎買いなるものはでゲスな、そばに姫が待っている方が愉快とおぼし召すか、はたまた何人もおらん方が愉快か、尊公のお胸に聞いてみたいねえ、おほほほと、ネチネチいや味を言う。
また、その次は、最初の客に輪を掛けた乱暴さで、てめえはなんぞギュウじゃあもったいねえ、牛クズだから切り出し(細切れ)でたくさんだとまくしたてられた。
やっとの思いで喜瀬川おいらんを捜し当てると、何と田舎大尽の杢兵衛だんなの部屋に居続け。
少しは他の客の所へも廻ってくれと文句を言うと「いやだよ、あたしゃあ」お大尽、喜瀬川はオラにおっ惚れていて、どうせ年季が明ければヒイフになるだからっちゅうてオラのそばを離れるのはいやだっちゅうだと、いい気にノロケて、玉代をけえせっちゅうんならオラが出してやるから、帰ってもらってくれと言う。
一人一円だから都合四円出して喜助を追い払うと、おいらんが「もう一円はずみなさいよ」
あたしに一円くれというので、出してやると喜瀬川が
「もらったからにはあたしの物だね?……それじゃあ、改めてこれをおまえさんにあげる」
「オラがもらってどうするんだ」
「これ持って、おまはんも帰っとくれ」
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