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林家彦六(八代目 林家正蔵)二つ面

   

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昔は寄席で一年中怪談噺をしたものです。一朝老人なんかもやっていましたが、ただ、正月の三が日はやりません。

柳亭西柳(りゅうてい さいりゅう)は弟子の佐太郎に今日の割を持たせての帰り道、追い剥ぎが出てきて、「金を出せィ」その声を聞いた瞬間、佐太郎は割を持って逃げてしまった。

「今日は正月四日、初仕事でしょう。私は何も持っていないので、羽織と小銭しか入っていない財布を、仕事始めの正月にアブレたのでは縁起に触るから」と、渡そうとすると、「ギャー!」と、言って逃げて行った。

後ろを振り向くと、怪談話の主人公、小幡小平次の幽霊であった。

「我々は『恨めしや~』と出て来ますが、年月が過ぎるといつまでも恨めしがっては居なくて、相手の護り神になるんだ。ここで立ち話もなんだから、知り合いの松島町まで行こう。目をつぶって肩にお掴まりなさい」

「ここなんだが、寄席の帰りだというと小腹が空いているだろう。何かご馳走しよう。何がイイ」

「寿司が食べたい。特に下品ですがこはだ……。こはだ様が好きです」

「頼みますからチョット待って下さい。『光り物を多くしてにぎり二人前』、こうすると相手に通じるんだ。この家は私を殺した太九郎の末孫(ばっそん)だよ。俳句なんかやっていて”駄九郎”(だくろう)と言うんだ。彼の守神になって居るから大丈夫だ。今、人形町で骨董屋をやっているよ、独り者だから部屋使っても大丈夫。寿司が来たよ、寿司は上が肴で裏がおまんまだから、『うらめしや~』と言うんだ。ところでネ~、教えてあげたいことがあるのだが、聞いてくれるかぃ」

「何でしょう」

「面を被って出るが、客が文明開化のせいか、笑うね。強がって笑うんだ。面がひとつだから笑うんだ、後ろにもう一つ面を付けてごらん。お客がギョッとして笑うことが出来ない。二つ面にしたら良いよ」

「ありがとうございます。お知恵を拝借いたします」

「遅くなると心配するといけないから、寿司はもう良いかぃ」

「寿司の御代を払わせて下さい」

「やだネ。払わせるぐらいだったら、連れて来ないよ。私も払わないよ、幽霊にオアシは無いからね。太九郎の末孫が払うよ、商売繁盛と手を回しているから……。来たときと同じように肩に掴まって目をつぶりなさい。もう西町に着いたよ」

「私は師匠が出る時は御客を招くからね、しっかりおやり」

変な切っ掛けで、小幡小平次と仲良くなってしまった。それからと言うもの大入りが続いて、夏になっても幽霊噺のかきいれですが、大入りが続いていたので二つ面は出さず仕舞いです。秋口になって風邪をこじらせ寝込んでしまった。

「師匠どうでございます」

「ありがとう佐太郎」

「師匠、お願いがあるんですが……。カミさんを持ちたいと思うんです」

「一緒になりなさい。居るのかぃ」

「お滝さんの娘のお艶チャンなんです」

「あの子は良い子だよ。長唄の名取りだし、お滝さんは下座だから少し勉強すれば、お前の下座になれる。二人で寄席に行けば共稼ぎで良いよな~。で、話しは届いているのかぃ」

「届いています」

「何時一緒になる」

「せめて、お腹の子供が生まれないうちに……」

「えッ、もう仕込んであるのか。結構結構。それでは、今の名前では小さいから……、大きな名前に変えなさい。私の師匠柳亭左龍(りゅうていさりゅう)の二代目になりなさい」

「ありがとうございます」

「もうひとつ、小幡小平次さんから笑う客には二つ面を見せろと教わった」

「ありがとうございます。身祝いとして、師匠の好きな寿司を頼んできます。光り物を多くして貰います」

「師匠今晩は」

「小平次さん。お聞きの様に佐太郎に全部伝授いたしました。やらないので謝りに行こうと思っていました」

「やだね~、そんな事では無いんだ。前にも言ったが、幽霊はいつまでも恨んで無くて、その人を護る側になるのだ、そしてハクが着いて極楽に行くんだよ。アッしも極楽に行くので、当分会えなくなるが、残った幽霊仲間の寿命が300有るんだ。皆の意見で決まったので使者になって来たんだ。300年の寿命を貰って下さい」

ヒュ~~。

「行っちゃったよ。長生きはしたいが300年はなァ~。師匠の左龍さんも八十四まで生きたが、長生きをすると退屈だと言っていたが、長すぎるな~、知ってる人は居なくなっちゃうな~」

「寿司屋に行って来ました。コハダも入っていますよ」

「300年て分かるか」

「徳川300年でしょ」

「長いな~。小平次さんが今来たんだよ、そして寿命を300年くれたんだ。私みたいに怪談噺しか出来ない貧乏人が寄席に出ていたら、世間の人は笑うだろうな」

「笑う時は、二つ面を見せなさい」

[出典:https://rakugonobutai.web.fc2.com/283futatumen/futatumen.html]

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