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古今亭志ん生(五代目)火事息子

      2018/07/08

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神田三河町の、伊勢屋という大きな質屋。
ある日近所で出火し、火の粉が降りだした。
火事だというのに大切な蔵に目塗りがしていないと、だんながぼやきながら防火に懸命だが、素人で慣れないから、店中おろおろするばかり。
その時、屋根から屋根を、まるで猿のようにすばしこく伝ってきたのが一人の火消し人足。
身体中見事な刺青で、ざんばら髪で後ろ鉢巻に法被という粋な出で立ち。

ぽんと庇の間に飛び下りると、「おい、番頭」
声を掛けられて、番頭の左兵衛、仰天した。
男は火事好きが高じて、火消しになりたいと家を飛び出し、勘当になったまま行方知れずだったこの家の一人息子・徳三郎。
慌てる番頭を折釘へぶら下げ、両手が使えるようにしてやった。

「オレが手伝えば造作もねえが、それじゃあおめえの忠義になるめえ」

おかげで目塗りも無事に済み、火も消えて一安心。
見舞い客でごった返す中、おやじの名代でやってきた近所の若だんなを見て、だんなはつくづくため息。
あれは伜と同い年だが、親孝行なことだ、それに引き換えウチの馬鹿野郎は今の今ごろどうしていることやら………と、そこは親。

しんみりしていると、番頭がさっきの火消しを連れてくる。
顔を見ると、なんと「ウチの馬鹿野郎」。
徳かと思わず声を上げそうになったが、そこは一徹なだんな。
勘当した伜に声など掛けては、世間に申し訳がないとやせ我慢。

わざと素っ気なく礼を言おうとするが、こらえきれずに涙声で、
「こっちィ来い、この馬鹿め。……親ってえものは馬鹿なもんで、よもやよもやと思っていたが、やっぱりこんな姿に………しばらく見ないうちに、たいそういい絵が描けなすった……親にもらった体に傷を付けるのは、親不孝の極みだ。この大馬鹿野郎」

そこへこけつまろびつ、知らせを聞いた母親。
甘いばかりで、伜が帰ったので大喜び。
鳥が鳴かぬ日はあっても、おまえを思い出さない日はなかった、どうか大火事がありますようにと、ご先祖に毎日手を合わせていたと言い出したから、おやじは目をむいた。

母親が法被一つでは寒いから、着物をやってくれと言うと、だんなはそこは父親。
勘当した伜に着物をやってどうすると、まだ意地づく。
そのぐらいなら捨てちまえ。
捨てたものなら拾うのは勝手……
意味を察して母親は大張り切り。

「よく言ってくれなすった、箪笥ごと捨てましょう、お小遣いは千両も捨てて……」

しまいには、この子は小さいころから色白で黒が似合うから、黒羽二重の紋付きを着せて、小僧を供に………と言いだすから、
「おい、勘当した伜に、そんななりィさせて、どうするつもりだ」
「火事のおかげで会えたんですから、火元へ礼にやります」

[出典:http://senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2005/02/post_10.html]

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