★立川談志/勘定板
ハバカリの無い村があった。山奥のまたその山の向こうに海岸が有って、ま、不思議な所があるものですが、その海岸に杭が打ってあって、紐の先に板がくくり付けられていた。便所に行きたいときは引き寄せてその板の上に用を足して、海にもどした。この村では上から食べて下から出すから勘定すると言って、その板を勘定板と呼んでいた。
その村人が江戸見物に出てきた。宿に入ったが仲間の一人が顔色が悪い。
勘定ぶちたいが、ここは江戸だから海も無いし仕方も分からない。
番頭を呼んで聞いてみることにした。
「相棒が顔色悪く、勘定が溜まっているので勘定をぶちたい」
「お発ちですか」
「いや、今朝来たばかりで10日程世話になる」
「それでは、お帰りの時まとめてくれれば、それでイイですよ」
「なに、10日もまとめるか。田舎にいたときは毎日勘定していた」
「お堅い事で」
「堅いか柔らかいかは分からない。毎日勘定ぶったらいけないか」
「毎日というと、私らが面倒になります」
「そっちが面倒でも、こっちはぶたせてもらう」
「分かりました。ではどうぞ。ここでおやんなさい」
「勘定板を持ってこい」。
番頭だから気が利きすぎていた。
勘定と言うからソロバンのことだと思った。昔のソロバンは裏に板が張ってあった。間違えるときは仕方が無いもんで…。
「これにどうぞ」
「板が細いがこぼれないか」
「ここからはみ出る勘定を私は見たことがございません」
「勘定が出来たらどうする」
「お手を叩いていただけたら、私が取りに伺います」
「勘定場に連れて行って欲しい」
「今、帳場が混み合っていますから、ここでどうぞ。床の間の前でも、日当たりの良い廊下でも、どうぞお好きな所で」
「では、廊下でしよう」。
ソロバンを裏側にしてまたごうとしたが、羽織の裾が引っかかってソロバンがゴロゴロゴロと転がり始めた。
「お~う、見ろや。江戸は重宝だ、勘定板が車仕掛けになっとる」。
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