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■桂枝雀(二代目)くやみ

   

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いろんなあいさつのなかで、いちはん難しいのが、「くやみ」やそうですな。
今の人、何言ぅて帰りましたんや?
大きな声出しなはんな
いぃえぇな、わけ分からんこと言ぅてましたで、はじめからしまいまで

まぁまぁ、そぉ言ぅたげなはんな。
横町の筆屋の大将でんがな。
あれでもご本人は一生懸命言ぅたはりまんねんけど、だいたいが口ベタな人でっさかい、あんなことになりまんねん。
帳面へ付けといたげなはれ

しかしまぁ、ここへ座ってますといろんな人がお越しになるんで、面白いっちゅうたら怒られますけど、なんか面白いよぉなことだんなぁ。

ごめんやす

これわこれわ炭屋の大将ですかいな、どぞこっち

ごめんやす、えらいことだしたなぁもし、ちょっとも知りまへんでしてんで。
わたい今、表で炭団(たどん)練ってましてん、そこへ小林っさん通りましてな「どちらへ?」言ぅたら「ご隠居さんとこへ」「何しに?」ちゅうたら「こぉこぉこぉだんがな」言ぅて、わたい「びっくり」言ぅてビックリしましてね、慌てて飛んで来ましたよぉなこって。

ほら見てみなはれ、あんまり慌てて来たもんでっさかい、手ぇ洗うのん忘れて真っ黒けの手ぇ。
皆さんに手ぇついて挨拶することもでけしまへん。
堪忍しとくれやっしゃ……。
急なことでしたなぁ。
長患いされるのかないまへんけど、こぉ急なんも、何じゃあとに残ったもんが頼んないよぉな気がしますよってねぇ。

うちの親父っちゅうのんが、ここのご隠居はんと一緒だ。
たった半日の患いでゴロッと逝きよったんだ。
酒呑みの極道もんで、死んでから財産調べっちゅうやつしてもろたら、日向炭が四俵しか残ったぁりまへんねん「えらいこっちゃ、もぉちょっと何なとあるかと思たら……、こんなことでどぉすんねんな」

言ぅてたら、そのときにここのご隠居はんが「まぁまぁ、心配せんでもえぇわい。
今まではしてやりとぉても、してやることがでけなんだけれども、あの極道が死んでちょ~ど幸いっちゅうたらおかしぃけれども、任しとけ何とかしたる」っちゅうて、今ん所へ店持たしてくれはりましたんです。

ホンマだっせ、ご隠居はんにはいろいろとお世話になってまんねん。
何です? へぇ、お蔭さんで店の方も何とかうまいことやっていってますし、お得意さんもどんどん増えてます。
ちゅうのが、ぶっちゃけた話、わたいがだいたいえぇ加減なことよぉせん性質(たち)だっしゃろ。
よそはよぉ「山成り」言ぅてはりますけど、やっぱり家でちょっと粉炭だけ抜いておます。

これは仕方がない言ぅたら仕方がないんですけど、うちは山成りっちゅたらホンマの山成り、産地直送ちゅうヤツ。
その代わりよそさんより少ぉしお値段よけいただいてまんねん。
ちょっと考えたら高いよぉに思いなはるやろけど、やっぱり使こてもろたら分かるとみえましてね、いっぺん持って行たうちは「おぉ~い、炭が切れてるで。
また持って来といて」きっちり言ぅてくれはります「裏が返る」ちゅうやつでね。

タドンがそぉです。
よそ、よぉ夏干してなこと言ぅたはりますけど、夏にそない干せるもんやおますかいな、そぉだっしゃろ。
うちで夏干しちゅうたらホンマの夏干し。
これね、炬燵へ入れてもろたらよぉ分かりまっせ。
よそのはドングリみたいな芯が残りますけれども、うちのはすっくり燃えてしもて綺麗ぇ~に灰になってしまう。
といぅのが、素灰あんまり使わんと炭の粉ぎょ~さん使いまんねん。

皆さん方それぞれ取り付けの炭屋はんもあることでっしゃろけど、ちょっと間へ挟んでみとくれやす。
また、ご親戚やお友達で炭の要るよぉなことがおましたらちょっと言ぅてやっとくれやす。
お値段のほぉは十分勉強さしてもらいます、お頼のもぉします。
さいならぁ~ッ……

な、何だんねん。
今の、あれ悔やみですか。
おのれとこの商売の広告して帰りよりましたで

まぁまぁ、そない言ぃなはんな、あれかて一生懸命言ぅたはるうちにあんなことなってしまいましたんやがな。
そこ付けといたげなはれ

ホンマに、ここへ座ってるとおかしぃっちゅうと怒られますけど、面白いこったんなぁ。

ごめんやす

これわこれわ、最上屋の女ごっさん。お越しやす

ごめんやす……、承りますれば、こちらのご隠居さまにはついにはよぉございませなんだそぉで、定めしご愁傷さまのこととお察し申し上げます。
長ごぉお悔やみ遊ばしますよりは、あとあとの香花をお大事になさいますよぉに。
手前主人、早速上がるはずでございますが、ただ今ちょっと手が放せんこといたしております。
お葬式には是非とも立たしていただきとぉ存じますので、お時間を承ってくるよぉ。
かよぉ申し付かってまいりましたの……。
あのぉ~、これは、はなはだ些少ではございますけれども、どぉぞご仏前に。

さよか、これはこれはお門広いのに結構なお祝いを……

あ、アホ。ご仏前にっちゅうたはるのに「結構なお祝い」と言ぅやつがあるか

ついうっかり

「うっかり」やないで、どんならんで、そっち行ってなはれ。
おまさんらだいたい人さんの挨拶受ける柄と違うがな。
おまさんらそこら掃いたり水打ったり、向こぉのもんこっち持って来たり、こっちのもん向こぉ持って行ったり、ウロウロしてたらえぇねん、どんならんで。

人間には分(ぶん)といぅもんが自ずからあるやないかい……。
代わりましたので。
へぇ、へぇへぇ、さいでございますか、しばらくお待ちを。
これ奥へ持ってって御寮人(ごりょん)さんに、最上屋の女ごっさんがわざわざ来てくれたはるっちゅうて、ほんでお為(おため)をたぁ~んと入れてもらうよぉなことに……、え? こぉいぅもんににお為は要りまへん。
分かって言ぅてますねん。
どぉ~しても座ぁが沈むよってに、何とか浮かそと思て気ぃつこてます。
やかまし言ぃなはんな……。

どぉでござります、ちょっとこんなこと……。
何にもおまへんけど、仏の供養の精進料理でこんなこと。
お嫌いですか? 嫌いですか、さよか。
ちょっとお待ちを……、気を変えまして甘いもの、おぉ~い、善哉二杯

ちょっと考えてもの言わなあかんがな、今日らみたいな日ぃ、善哉みたいなもんあれへんがな

分かってるがな、食べはれへんがな。
愛想で言ぅてるねん。
言ぅたらシャレやがな、シャレの分からんやっちゃで、ホンマにもぉ……

えぇ、ありがとさんでござりました。
葬式は明日の午後の正三時でございます。
お帰りになりましたら、どぉぞ旦さんによろしゅ~おっしゃっていただきますよぉに。
もぉお帰りだすかいな? 根っからお愛想がござりませぇで、まことに相済まんこってございます。
失礼(ひつれぇ)いたします、お気をつけてお帰りやす。

さいならぁ~……、どぉですもし、今まであれだけの挨拶おましたか。
違いまんなぁ、あれだけ立て板に水と言ぃたいけれども、水ならまだ立て板に染み込む間ぁがおまっせ。
立て板に粒を転がすごとくコロコロころとよどみがないわい。
聞ぃてるもんの肩の凝りが取れまんがな。

だいいち入って来るときからして違いまんがな、男みたいにヒョコタンひょこたんしまへんで。
やっぱりちょっとこんなとこへ手のひとつも当てて、頭とお尻と七三に振って、頭の天辺から声出して「ごめんくださりませ」

どこから声出してんねん、奥へ聴こえたら御寮人さんに叱られるで、ホンマに。

向こぉから来たん、手伝(てった)いの又はんと違いますか?

え? そぉらしおまんなぁ

えらいすんまへん、ちょっとここ替わってもらえまへんか

何言ぅてなはんねん。
あんた最前、あの男に何言ぃなはってん「おまはんらこんなとこへ座ってる柄やない。
わたくしが」っちゅうて、押しのけて座わんなはってん。
ちゃんと座わんなはれ。

そら、ほかの人なら座ってますけどな、あの又はんだけはちょっと具合が悪い。
といぅのが、あの人に悪い病気がおますんでね

何だんねん、その病気ちゅうのわ?

人の顔さえ見たら嫁はんのノロケ言ぅんですわ。あの人の悪い病気です

嫁はんのノロケて、どこの嫁はんの? え? 向こぉの、あの、嫁はんの? えぇ~ッ、あの嫁はんの? えぇ歳だっせ、オモロイ顔してまっせ、こんな顔してまっせ、あの嫁はんのノロケ? オモロいやおまへんか。

面白い? あんたよぉそんな大胆なこと言ぃなはんなぁ、知らんさかいにそんなこと言ぅてなはんねん、あの男のノロケだけはひと通りやふた通りやおまへんで。
横町の染もん屋の大将、まぁ前から体の具合も悪かったんだっしゃろけども、あの男のノロケ聞くなり腰のチョウツガイ、ガチャいぅてはずれて、いまだに元に戻りまへんねんで。

今日らみたいな日に来て、悔やみとノロケと一緒にするとは思えまへんけどね……、とりあえずは座ってまっけど、危ないなっちゅうときにはすぐに代わっとくなはれや、頼んまっせ。

ごめんやす、ごめんやす

又はんどぉぞこっち

ごめんやす。ご苦労はんでやす、ご苦労はん、ご苦労はん。
けどまぁ惜しぃ人亡くしましたなぁ、お歳に不足はおまへん、おまへんけどね、もぉちょっと居ててほしおましたで、世の中ちゅうのはうまいこといかんもんでんなぁ「あんなやつ早よ死にやがったらえぇのに」ちゅうんが長生きして、ここのご隠居はんのよぉなお方、お歳に不足はおまへんけど、もぉちょっと居ててもらいとおましたで。

世話好きで、人の世話しては喜んではりました……。
皆さん方、どなたもいっぺんや二へん、必ずこのご隠居さんにお世話になったはりまっしゃろけど。
聞ぃとくなはれ、わたいらの世話になりよぉ、ひと通りやふた通りやおまへんねんで。
わたいらが世話になったちゅうのん、今からちょ~ど十八年前です……

その折、えらい雨風でねぇ、ここの前の壁がドサッと落ちたことおまんねん。
その時にこのご隠居はんが「又兵衛、これぐらいのこっちゃったら、わざわざ左(しゃ)官入れるまでもない、お前が器用で繕(つづく)られんか?」「へ、これぐらいのことならやらしてもらいます」ちゅうて、実はわたしが表の壁つづくってましたんで。

ほとね、古るぅからこの町内に居てなはるお方ならご存じでっしゃろけど、お向かいに池田屋はんちゅう薬屋はんがおましたんですけど、ご存知おまへんか? そぉ、蚤(のみ)取粉の大きな提灯ぶら下げた、そぉです。
実、この池田屋はんへね、今のうちの嫁はんが奉公しとりましてね……

ぼちぼち始まりましたで。

わたしが、こぉ壁つづくりながら何の気無しにヒョイッと向かい見ますといぅと。
池田屋はんの店先でうちの嫁はん、針仕事しながら店番してまんねんで。
今でもあんな女ごでっさかいね、その時分かて別嬪ちゅう女ごやおまへんでしたけれども、若い時分のこってっさかい色の白いぽちゃぽちゃ~っとした、いわゆる男好きのする顔ちゅうやつ。

こんなんおましょ? 別嬪やないけど男好きのする顔っちゅうのん。
あれですわいな「あぁ、可愛(かいら)し女ごっさん来たはるなぁ」わても若い時分のこってっさかい、ちょいちょい向かいへ目がいきますわ。
何の気無しにヒョイッと向こぉ見たらね、どぉした拍子か向こぉもこっちをヒョッと見よったんだ。

互いに見合わす顔と顔っちゅうヤツ。
その時分わたいね、友達から「おい、お前みたいな男、職人にしとくのんもったいないぞ。
役者になれ」なんてね、ベンチャラにもせよ言われてたんだ。

向こぉも「まんざらでもない男はんやわぁ」とか思いよったんやろか、わたいの顔、おかしな目つきでジ~ッと見といて、またうつむいて仕事しよる。わたいがヒョイッと向こぉみると、またヒョイッと見上げてジ~ッとうつむいて仕事しよる。

おかしなあんばいやなぁ思たんでね、今度目ぇの合ぉた時、ニコッと笑ろたりますっちゅうと、その時分うちの嬶(かか)まだウブなもんで、耳の根元までボ~ッと赤(あ)こしやがってからに、ニコッと笑ろて袂で顔隠しよったんでおます~ッ!

頼むから誰か替わってぇな! えらいことなってまっせ。

若い時分のこったっしゃろ、おかしな仲になってしまいましたんや。
ほたら、ここの池田屋の主人ちゅうのんが堅いお人でね「あんなことするよぉな女ご、うち置いとくことでけん。
お宅もあのケッタイなん出入り止めてもらわなどんならん」ちゅうて、えらい剣幕で怒って来はりましたんや。

その時にここのご隠居はんが「まぁまぁ、そこまで言わいでもえぇがな。
別にこれが間男したといぅわけやなし、若いもんのこっちゃ、好いたもん同士なら一緒にしてやったらえぇやないか」とか何とか、あんじょ~言ぅてくれはって、家も一軒借りてくれはって「さぁ、喧嘩すんねやないぞ。
仲良ぉせぇよ。
道具に足らんもんあったらうちに取りに来いよ」言ぅてもろた時の嬉しさ、わたい死んでもよぉ忘れまへんわ。

そんなんでっさかいね、当座、わたいがちょっとでも帰りが遅いとうちん中よぉじっとしとりまへんわ。
路地(ろぉじ)口出て来てわたいの帰る方見てボ~ッと待っとりまんねん。
わたいの姿がチラッとでも見えるっちゅうと、ダァ~ッと走って来よって「まぁ~、あんたかいなと思たら、やっぱあんたやったんか。
今日はえらい遅かったやないか……」ちゅうて半分泣きかかってまんねんで。

「済まんすまん、今日は仕事がテッパッてちょっと遅なってしもたんや」言ぅてやると「さよか、そんなこと知らんもんやさかいにどこぞ他にえぇとこができて、そこへでも寄ってんのかしらと思て、今もうちであんたのこと恨んでたんやわ。
男が外で一生懸命汗かいて働いてくれたはんのに、女ごがうちで恨んでるやなんて、こんな間違ごぉたことあるやろか……、こんな話聞ぃたら、あんた腹が立つやろなぁ」ちゅて、また泣きかかってまんねんで。

「何を言ぅねん、わしみたいなもんのことでも何とか思てくれりゃこそ、そんな要らん心配のひとつもすんねやないかい」言ぅと「さよか、堪忍してくれてやか。
嬉しやな。
ほなその道具箱こっちかしなはれ」「道具箱みたいなもんどないすんねん?」「わたいうちまで持って去(い)ぬのん」「何で持っていぬねん?」「何で持っていぬて、あんた今まで一生懸命働いててくれてたんやないか、わたいうちで遊んでたん。
せめてその道具箱うちまで持って帰らんことには、わたいの気が済まん」

「そんなこと言ぅたかて、こんな重たいもん足の上へでも落としたらいかんさかい止めとき」「持ちたいのん」「止めとき」「持・ち・た・い・のん」「止めとき」「ん~~ん、持ちたいのん」

「そぉ~か、そぉ言ぅねんやったら半分だけ持ってもらおか」「あぁ、嬉しやの、わてこっちでっせ」「よっしゃ、わしこっちやで」ちゅうてね、小さな道具箱二ぁりして舁(か)いて、わたいが後ろから「よいとさ」嬶、嬉しそぉに「よいさ」「よいとさ」「よいよいこらさ」「どっこいさ」ちゅうてね門口まで行きまっしゃろ、嬶、うちの中入ったらえぇのに入りよれしまへんねんで「よいとさ」押し返しよりまんねん。

しゃ~ないさかい、また後ろから「よいよい、よいとさ」「よいさ」「よいよい、こらさ」「どっこいさ」また路地口出てしまいまんねんで。
また、わたいが向こぉへ「よいよい、よいとさ」路地口と門口、行たり来たり、行たり来たり、うちの中へ入んのん、たいてぇ一時間四十分ぐらいかかりまんねんで。

うち帰るっちゅうとね、暑い時分やみな、行水ができるよぉに湯ぅ沸かしてタライの中入れて待ってくれてまんねんで。

わたいが着物脱いで入ってるっちゅうと、後ろから「あんたぁ~、いっぺん背中流しまひょかぁ~」「そぉか、ほなざっとでえぇから流してくれるか。
済まんなぁ」「まぁ、我が女房に背中流さすのに『済まん』やなんて、黙って向こぉ向きなはれ」ちゅうて、わたいの後ろへ回って、手拭に石鹸付けて、ウェ~ッと背中流してくれまんねん。

そらよろしぃねんけどね、片っぽの手ぇ空いてまっしゃろ、この空いてる方の手をね、わたしの脇の下からこないしてお乳のとこ、こそぼったりしますねん「ははははハぁ~……、しぃなっちゅうねんアホ、こそばいやないかい」「わたいらみたいなオタフクが触ったら、こそぼおまっしゃろ」「誰が触ったかてこそばいもんこそばいわい」

「ははははハぁ~……、しぃ~なっちゅうねん、着物が汚れるやないか、濡れるやないか」「着物が濡れていかんのやったら、わたいも一緒に入れてもらおかしら」「まぁ、入んねやったら入ったらえぇがな」「ほな、わたいも一緒に入れてもらいまっさ」言ぅて、嬶も着物脱いで入って来よって「お互いに背中流したり流されたり、そんな邪魔くさいことやめて、いっぺんに流せるよぉにしょやおまへんか」

「どないすんねん?」言ぅたらね、わたいの背中へさしてぎょ~さん石鹸塗りよってね、ひとつタライの中へわたいと嬶と背中合わせに入りまんねんで。で、わたいがシュッと立つと、嬶がシュッと座りまんねん。嬶がシュッと立つとわたいがシュッ。
背中こすり合わせてシュッ、シュッ、シュラシュシュシュッ……、去年の夏、タライの底四つ抜きましてん。

行水から上がるっちゅうと、ちゃ~んとお膳ごしらえがでけてます「八寸を四寸ずつ食ぅ仲の良さ」わたいらのことだ、ご馳走(ごっつぉ)おますかいな、ごっつぉはおまへんけれども番采(ばんざい)もんの姉はんみたいなもんがふた品三品、銚子がちゃ~んと燗がついてますわ。

「おひとつ、どぉ~ぞ」「そぉか、えらい済まんなぁ。
おっきありがとぉ。
知っての通りわしゃえらい酒呑みでな、表でせんど酒呑まんこともないけど、やっぱり酒はこぉしてうちで呑むに限るなぁ……、おんなじ酒でも杓の仕手によってこぉまで味の変わるもんかいなぁ」なんてね、ベンチャラ言ぅてやりますと、

「あんなうまいこと言ぅて、わてみたいなお婆(ば)んのお杓でなんの美味しぃことおますかいな」言ぅて「なんのお婆んなことあるかいな、夫婦の間に年はないぞ。
いつまで経ってもお前十八われハタチ、その馴れ初めの頃のこと思い出してみぃ、まんざらでもなかったやろ」「アぁ~ホぉ~……」言ぅてね。

かか、盃に二、三杯も呑みやがって、この辺ボ~ッと赤こしよってからに「わたい今日はあんまり嬉しぃもんやさかい、少ぉ~しお酒いただいたら、こない酔ぉてしもて、えぇあんばいになってしもた。
あんた何ぞ唄とて聴かしとくなはれ」「わいらみたいな声の悪いもん、唄わしたりしないな」「あんた、声はえぇことないけれども節回しにどことのぉ粋なとこがあんのん」

嬶、押し入れから三味線出してきよって、調子合わして弾き出しよったらたまりまへんがな、一杯入ったぁるもんやから都々逸。
わたい好きでんねん「チチン、チチトテ、チャチャン、チャンチャンチャ~ン……!」

……? す、スビバせん……、けどまぁ、文句だけでも聞ぃてもらいます「この舌で嘘をつくかと思えば憎い……、えぇ~、噛んでぇ~、やり~た~い時ぃ~もあ~るぅ~」っちゅうと、かか三味線向こぉへパァ~ッと放り出しよって、わたいの膝んとこへギャ~ッとかじりついて「好っきゃ! 好っきゃ! 好っきゃ! 好っきゃ! 好っきゃ……!」ヒャ~ッ!

今時分、もぉうちでよぉじっとしとらんと思いまんので、ちょっとも早よぉ帰って顔見せて安心さしたりま。
さいなら、ごめぇ~ん……!【さげ】

な、な、何とエゲツナイもんでんなぁ~!
お馴染みの「くやみ」といぅばかばかしぃお噺で……

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