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古今亭今輔 (五代目)くず湯

      2019/02/03

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有崎勉(柳家金語楼)作

お婆ちゃんは、孫の幸次が引越しをし、室内はごった返しているが、早く会いたい一心。1週間もすれば整理整頓が出来るでしょうから、お婆ちゃんをその時行かせることになった。前の晩は、うれしくて子供が遠足に行く晩のように、ソワソワして落ち着かなかった。

ところが、お婆さんが家に帰って来たが疲れた様子。玄関で座り込んでため息ついて、這って部屋に入った。足袋も脱がず、帯も解かず、布団に入った。

心配する息子夫婦。

幸次には言っておいたんだ、「家のお婆ちゃんは、無口で、世話好きで、親切で、『イヤ』と言ったことが無いんだ。七十を過ぎているから、消化のイイ物、中華、洋食はダメで、肉料理もダメだ。間食も大福や練り羊羹は重すぎるので、『くず湯』位が適当だと思う。お風呂も好きだが毎日では嫁さんが大変だから、腰湯で結構。『塩湯』か『芥子(からし)湯』にしてくれれば、身体が温まるから良いだろう。と伝えたんだが……」。それではお婆ちゃんの部屋に行ってきます。

「気分は如何ですか? 起こしましょうか」

「触らないでください」

「疲れた様子ですが、引越しの手伝いしたんですか」

「いいえ。孫嫁の花子さんが親切で……何も私に聞かないでくださいよ」

「では、幸次に聞きます」

「孫嫁が幸次さんに小言を言われますから、聞かないで……約束しましたよ」。

「朝、貴方に送ってもらって、家に入ると二人が出て来て歓待してくれました。幸次が出勤すると、花子さんが両手を着いて『私は学校を出たばかりで、世間の常識が分かりません。気が付かないことがあったらお教え下さい』。何んて優しい嫁なんだろうと感心しました。『お父様にお聞きしましたら、大変くず湯がお好きなようで、準備しましたので、こちらにどうぞ』。お茶をいただく茶室は知っておりますが、くず湯を食べるための部屋があるのかと付いて行くと、そこはお風呂場」

「タイル張りの良い風呂場でしょ。道中の疲れを流してさっぱりしてから、くず湯を出すんですかね」

「私もそう思いましたよ。花子さんが湯船の蓋を取って、『本場のくずを取り寄せましたので、どうぞごゆっくりと……』。私は丼や湯飲みでいただいたことはありますが、その中に浸かるなんて……お前だってありますか?」

「僕だってありません。どうしました」

「花子さんが親切で点ててくれたのを、嫌がったら花子さんに恥を掻かせますので、入りました」

「どんな気持ちでした?」

「布海苔の樽に落ちたようなもんです。ヌルヌルして、ナメクジとナメクジの間に裸で座ったような心もちでした。直ぐ出ようと思いましたら『お婆さんのために点てたくず湯ですから、どうぞ、ごゆっくり……』と、2時間入っていました」

「真水のお湯だって1時間入っていたら湯のぼせしますよ」

「出たらクラクラして、上がり湯がないのでタオルで拭いたら、糊がヌルヌルして拭ききれません。仕方が無いので浴衣を着たら肌にべっとり張り付いて、歩くことも出来なくなって、花子さんに連れられやっと座敷に行きましたら、『茹で蛸のようだ』と言って大きな扇風機を掛けてくれました。糊が乾いたらギブスに入ったようになって、話をしてもバリバリと糊が剥がれ、手を動かしてもバリバリ、まるで新聞紙の布団に寝ているようでした」。

「翌朝、花子さんに、くず湯は贅沢ですから1日で結構。真水のお湯に入れてもらえると思ったら、『本日はお婆さんの大好物、芥子湯に致しました』」、「腰湯だって温まるのに、入らなかったでしょね」

「だって、花子さんが作ってくれた芥子湯、入りましたよ」

「どんな感じでしたか?」、「足の裏からチクチクして、身体中に木綿針を刺されたようで、その時ばかりは直ぐ出ましたが、花子さんが『昨日はうっかりしまして、お背中をお流ししませんで……』と、身体中に芥子が付いているところに新しいヘチマでゴシゴシ、ワサビ下ろしで擦られているような思いでした。命ばかりはお助けと、逃げ出しました。外に出ると風に当たって身体中ヒリヒリ、電車に乗って吊革につかまってもヒリヒリ。出て来るのは芥子でなく、涙ばかり」

「ガマンすることないでしょう。孫の所に行ったんですから。芥子湯はそんなに長く入っていなかったでしょうね」

「このお風呂ばかりは、長く入っていられませんよ。昔の人の例え通り、これが本当のトホホホ、カラス(芥子)の行水でしょう」

[出典:https://rakugonobutai.web.fc2.com/196kuzuyu/kuzuyu.html]

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