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古今亭志ん生(五代目)松山鏡

   

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1966年(昭和41年)録音

 

よくこの…お色気と言うことを申しますが、お客様の御存知な事で、御婦人というのものが第一なんですがな、

「女はちょいと見るてぇと大変きれいでいいけれども、どうも腹の中はよくねぇ!女は外面似菩薩内心如夜叉(げめんじぼさつないしんにょやしゃ)」という、顔見ると菩薩のようにきれいだけれども、…え~腹の中は鬼か蛇だ、と言う事を…

お釈迦さまがそう言ったんですよ、こりゃぁ!…あたしに苦情いってきちゃってもしょうがない。

綺麗がうえにも綺麗がしたい、あ~どうも、お化粧するときにはどんなに寒くても肌脱いじゃってね、それでやるんですからな!…鏡を向こうへ置いといて、下塗りから中塗から上塗りまで塗っちゃって、塗りあげてしまうてぇと鏡の側へこう顔を持っていく人が有りますな、近目が水族館入ったみたいにこんなになって、…なんかこう鏡に苦情行ったりする人が有りますね。

「いやだぁ、この鏡!…いや!こんな顔悪く見せて!」
てめぇの顔が悪いんだ!それだからその自惚れというものは、鏡が有るんで自分の顔が分かる、もし鏡が無かったら人は困るもんですな。

え~、ずっと昔に鏡のない国が有った。これは越後の魚沼の在に、松山村と言う処がある。そこに鏡がなかった。だから人にみんな見てもらう、自分の顔をね!こっちも向こうの顔を見てやる。

「俺の顔どうだい!」

「だみだよ、われの顔なんざ、顔じゃねぇやそりゃあ!」

この村に庄作と言う人がいる。こいつぁ大変に親孝行な人で、母に早くこの世を去られて、1人のおとっつぁんをもう
「父つぁま、父つぁま」と言って、親孝行を本当に自分の楽しみにしていた。
それが、その父が57歳を岐路として、この世を去ってしまった。あとは、がっかりしちまって、自分は野良へ仕事にも行きません。

「父つぁま、父つぁま」っと…

ご領主さまが、
「あ~、不憫なやつである」と呼び出しまして、

「松山村庄作はその方か?…父存命中に孝行を尽くしたによって褒美を取らせるぞ!」

「へぁい、…わし褒美なんぞ要りませんで、え~~、子が親の孝行するなぁ~あたりめぇでござんす…あたりめぇの事して褒美貰う訳がねぇんで」

「いや、あ~、孝行というものはするべきものだが、中々しにくいものである。なんなりと望め!」

「望みねぇんですわ、あっしは」

「人として望みのない者はない、どう言う事でもかなえてやるぞ!申してみろ、武士に二言はない、何を望む?」

「それでは、…ご領主さまのご威勢を持って、…死んだ父つぁまに1目でいいから逢いてぇんですがね!…おやじに逢わしてもらいてぇ」

こいつぁ乱暴なね、おやじに逢わせろっていう…だけれども、その頃は「武士に二言は無いっ!」と言った以上はなんとか格好つけてやらなきゃならない。

弱ったなと思ってると、この村には鏡が無いということにお気づきになる。その頃は至る所の国司(僧尼の親分みたいな人)、国司に京都の八咫の鏡の写しが有り(やたかがみ、国宝、八咫烏の八咫)、保存されてる。それをご宝蔵から取り出してきて、箱の周りに〆が張ってありまして、ご短冊へ
「子は親に似たるものぞと、無き人の恋しき崛起(くっき、にわかに起こり立つこと)は鏡をとぞ見ん」という古歌をつけまして、それへ出します。

「その中にその方の父がいるから、逢え!」

「へぇ~、この中に?…はぁてねぇ?ほんとかな、まあ…あ~」
それってんでふたをヒョイととると、初めて鏡という物を見るんですから、

「あ~!父つぁま居りました!…うあぁ~~どうしてぇ?父つぁま!え~、俺でぇ、庄作でぇ~…いやぁ~、どうもあんた…ずいぶん若くなったな…いやぁ~なんだってそんなせめぇとこへ入ってんで?父つぁま…父つぁま、おりゃぁうれしいだ…いやぁ!父つぁま、涙こいてんな!ああぁ~ん」って自分の顔を一所懸命指さして喜んでる。

「その箱をその方に貸し与えてつかわすから、朝な夕なに父に逢え!…ああ、なれどそれは他の者に言ってはならんぞ!そちに貸し与えるのだ」

それを持って帰って、女房にも言っちゃぁいけないというような訳で、二階に上がってきて長持ちの中にその箱を入れて、…女房に内緒で二階に上がってきてはな、
「どうしたい!…あ!うん、父つぁま、もう逢いたくてなぁ!」
なんてなこと言ってちょいちょい二階へ上がってくる…上がったり下りたり、上がったり下りたりしている…と、庄作の女房は、
「何だいあの人は、なんだって二階ばっかり上がってるんだろね?…二階に何かあるんじゃねぇかな?」
というんで、庄作が村へ仕事へ行った留守に、そぉっと二階へ上がってきて、よ~っと、こう見たが
「何にもねぇけんど?…」
ひょいっと長持ちの中を見ると、…この庄作の女房も初めて鏡見るんだ。

「庄作どんは…、二けぇばかり上がってると思ったら、…この女のとこへ来て逢ってるだな!…これ!おれにゃぁ庄作という者がある、おりのもんだぇ!…どっから涌いできた?…ん?われのつらぁ見ろぃ!男だますすつらか、われは!うすみっともねぇつらしやがって!」

自分の顔を一所懸命に悪く言う!さぁ下りてくるともう、悔しくってじりじりしてる。来やがったら、帰ってきたら、
こん畜生めっと思うとたまらない!右の方から癇癪の虫が、つ~っと上がってくるから、こいつを抑えておくってぇと、左の方から焼餅の虫が、す~っと上がってきて、こいつを抑えるてぇと真ん中の方からへっぴり虫が、いろんなものが上がってくる。

「飯にしてくれんか!飯の支度してあるか?」

「飯の…支度なんか、おら知らね!」

「何だ知らねて、しょうがねんでねぇか!…わりが知ってか知らねか、飯食わねかなんねぇだが!…どうしただ?」

「どうしただって、おらぁ知らねぇよ!おらみてぇなもんが作ったって旨くなかんべがや!!!」

「われ、どっか心持が悪いか?」

「わりぃんだやい!!、悪いやい!!…庄作どん、おめさん何であんな水くせぇ事するんだ!こういう訳だって言ったらいいじゃねぇかね!何だ二階のあれは?」

「二階の何だ??」

「何だもあるかい、ちきしょうめ!え?言えねぇもんだろ、てやんでぇ、こんちきしょう!」

悔しいからパーッと胸ぐら掴むと、

「何しやがんだ、こんちきしょう!」
とパーンとひっぱたく。

「何をぶちやがんがよ、畜生め!!」

「分からねぇからだよ、この野郎!…ん?…何だぁうるさいやつだ、この狸あまめ!」

「狸あまだ?どうして狸あまだ?あ~?われ、おりと一緒になった時なんてった?おめみてぇないい女はねぇ!生きた弁天様見てぇだ、そう言ってただ。それが狸になるか!!」

「うるせぇ、このあま~!」

てなもんで、殴るてぇと片ぽうじゃあ「ぶちゃぁがったな」ってんで「あ~!」っと喰らいつく!

また庄作の女房の歯はねぇ、すっぽんの歯みたいにね一枚歯ときてる…
え~、これが「う~悔しい!!」ときて“ガリガリ”ときたから、いてぇのなんの、「何しやがんだ!」ってんでひっぱたく
「何だこん畜生め」てぇとドタバタドタバタ、取っ組み合いが始まる…

この村に尼寺が有ります。このお比丘さんがこの前を通ると、中の庄作夫婦が喧嘩しているから、

「まあ、何だ!…まあま、待たねぇかよ!え~、何で喧嘩するだ?お咲さん、どうして喧嘩するだ?」

「どうしたもこうしたもねぇ!本当に悔しい!」

「どうしただ?」

「どうしただもねぇだ、庄作どんはね、…どっかから女引っ張ってきて二けぇ上げといて内緒にしといて、逢いに行ってるだ!二けぇの長持ちの中にいやがんだそいつ!え~~悔しいじゃないか、わたい!こういう訳でもってと理由はなさねぇから分からねぇども、騙された…おらあもう悔しくて何ねぇ!」

「あぁ…そう泣くでねぇ、泣いたってしょうがねえでねぇか。そういう事良くねえな、うん!あぁ~庄作どん、こんな事すんじゃねぇ、弥蔵女(やぞうめ、奉公人の事)なんか長持ちん中へ何で入れとくだ、えぇ?」

「そんな??」

「いや!お咲さんが見たってんでねえか、よく考えなきゃだめだぞ~、女房は亭主というものを頼りに生きるんだ。それをそんな事して良いわけねえ!…え~~まあ、しょうがねえこうなったら、おり(おれ)が話しつけてやる…二階の長持ちの中にいる女だってえのが気が気でねぇや!俺に任しとけぇ!」

ってなもんで、二人を止めておいて二階へとんと~んとこの尼さんが上がってきて

「まあ、ちょいとあんた!そこに居たってだみだ、こっち出てこぉ、おりゃあんたに話あるだ!…あぁ~~、ん~~いろいろ話しつけるだで、出なせーよ!」
って覗くてぇとね、このお比丘さんも初めて鏡見る人で

「ありま!まあ、喧嘩すんでねぇ!感心だなぁ女は!…きまりが悪いもんだから長持ちん中で坊主になっちゃった!」

[出典:http://aoishin.seesaa.net/archives/20100429-1.html]

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