立川談志/味噌蔵
あらすじ
驚異的なしみったれで名高い、味噌屋の主人の吝嗇(しわい)屋ケチ兵衛。
嫁などもらって、まして子供ができれば経費がかかってしかたがないと、いまだに独り身。
心配した親類一同が、どうしてもお内儀さんを持たないなら、今後一切付き合いを断る、商売の取引もしないと脅したので、泣く泣く嫁を取った。
赤ん坊ができるのが嫌さに、婚礼の晩から新妻を二階に上げっぱなしで、自分は冬の最中だというのに、薄っぺらい掛け蒲団一枚で震えながら寝る。
が、どうにもがまんできなくなり、二階の嫁さんのところに温まりに通ったのが運の尽き。
たちまち腹の中に、その温まりの塊ができてしまった。
振りかかった災難に頭を抱えたケチ兵衛、番頭に相談すると、臨月が来たらかみさんを腹の赤ん坊ごと実家に押しつけてしまえばいいと言う。
そうすれば費用はみなあちら持ちだと聞いて、ケチなだんなはやっと一安心。
さて、十月十日がたって、無事男子を安産の知らせが届いたので、ケチ兵衛、小僧の定吉をお供に出かけることにする。
重箱を定吉に持たせるが、これは、宴席のごちそうをこっそり詰めてくる算段。
出掛けに、もし近所から火事が出たら、商売物の味噌で蔵の目塗りをするよう番頭に言いつける。
これは焼けたのをはがして、奉公人のおかずにするため。
だんなが出かけると、奉公人一同、このチャンスにのみ放題食い放題、日ごろのうっぷんを晴らそうと番頭に申し出る。
なにしろ、この家では、朝飯の味噌汁が薄くて実なし。
自分の目玉が映っているのをタニシと間違えるほどだから、むりもない。
番頭が、勘定は帳面をドガチャカごまかすことに決め、寿司に刺身、鯛の塩焼きに酢の物と、ごちそうをあつらえる。
最後に木の芽田楽をどんどん届けさせることにし、相撲甚句に磯節と、陽気などんちゃん騒ぎ。
こちらはだんな。
定吉が重箱を忘れたので、小言を言いながら戻ってみると、大騒ぎをしている家がある。
ああいうのはだんなの心がけが悪いと言いながらも胸騒ぎがして、節穴からのぞいてみると案の定自分の家。
手代の甚助が、ウチのだんなは外から下駄を拾ってこさせ、焚き付けに使うだの、ドガチャカだのと言いたい放題。
番頭が「だんながもし途中で帰ったら、鯛の塩焼きを見せれば、だんなは塩焼きはイワシしか知らないから、たまげて人事不省に陥る。寝かせちまって、あとは夢を見たんでしょうとゴマかせばいい」と言うのが聞こえたから、ケチ兵衛はカンカン。
ドンドンと戸をたたき「おい、あたしだ
」一同、酔いもいっぺんに醒め、急いで膳を片づけたがもう遅い。
「この入費は給金からさっ引くから、生涯ただ働きを覚悟しろ。ドガチャカなんぞさせてたまるか」
と怒っているところへ戸をたたく音。
「ええ、焼けてまいりました」
さては火事だと驚き
「どこから焼けました」
「横町の豆腐屋から焼けてまいりました」
「よっぽど焼けましたか」
「二、三丁焼けました。これからどんどん焼けてきます」
これは火足が速いと、慌てて戸を開けると、プーンと田楽味噌の匂い。
「いけねえ。味噌蔵ィ火が入った」
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