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立川談志 猫久(ねこきゅう)

   

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長屋連中の人気のおかず『鰯のぬた』は、貧乏人のおかずとされていた。
落語『目黒の秋刀魚』の秋刀魚と同様、この下品な食物が実に美味しい。
いくら安くて旨くても、江戸のおかみさん達は、手が臭くなるのがいやで魚を料理するのをいやがった。
鰯のぬたの味噌は女房がやっても、魚をおろす大事なところは、行商の魚屋に頼むか、亭主の役割にしていたようだ。イワシを泥棒猫がくわえて逃げている。
このイワシは、熊さんと女房の『鰯のぬた』になるお昼のおかず。「そこにあるすりこ木を持ってこいっ。今日という今日は、張り倒してやる。」
どうやら、その猫は魚泥棒の常習犯。

「待っといでよう。いま、あたしゃいただいているところだ」といいながら両手ですりこ木を、神棚の下で三度も押しいただいている間、猫は逃げてしまう。

その女房のこの不思議な行動はどうやら何かいきさつがあるらしい。

ある長屋に久六という八百屋さん、お人好しで、人に頭をなぐられても、
何を言われてもにこにこ笑っている大変おとなしい方がおりました。
ご近所の方から、「まるで猫みたいなやつだ」と言われ、猫の久だから猫久というあだ名で、猫で通っておりました。

このおとなしい猫久さんが、ある日、血相を変えて家に帰り「今日という今日は勘弁がならねえ。おい脇差しをだせ。刀をだせ!」と女房に怒鳴っております。

それを知った長屋の熊(熊五郎)さん、早速女房につげにいった。
熊はそのことを他の誰かにもしゃべりたくて、床屋に行くという。

「いけないよ。鰯こしらえとくれ、鰯を。南風が吹いて、ぽかときてるんだから、ぐずぐずしてると、鰯が腐っちまうよ。いわしが!」
「やかましいやい。いわし、いわしってどなりゃあがって……お昼のおかずがいわしだってぇことが、長屋じゅうにわかっちまうじゃねえか」
女房の止めるのも聞かず、熊さん、出かけてしまった。

普段まったく無いことですから、それを知った長屋の連中が驚いたのなんの。
江戸の界隈にすぐ広まり大騒ぎです。既に髪結い床の親方にまで伝わっておりました。

「いやぁ、びっくりしたねぇ。あそこのうちに刀があったんだね。あのかかあ、
神棚の前へ坐って、なんだか拝んでいたが、三ベンばかりいただいて猫に刀を渡しやがった。
あぶないじゃないか。あのかかあは変わり者だよ。」などと言っている。
日頃から久六の女房を良く思っていない長屋の女房達の悪口も加わる始末。

と、そこに居合わせた侍が、「変わり者だという、その方達がおかしい。
日頃から猫といわれるほど大人しい男が、血相を変えて刀を出せとは、よほどのことがあったのであろう。
それを察して、神前に三度もいただいて刀を渡したとは、先方に怪我のないよう、
夫に怪我のないように夫を思う女丈夫というべき賢女なり。貞女なり。
天晴れ、いや、あっぱれだ」と言ってほめちぎる。

家に帰った熊さんは、髪結い床での話を早速女房にした。
「猫久の女房は変わり者だよ。」といっている熊さんの女房に、 はたしてうまく伝わったのか……。

そうしているすきに、台所に置いてあったお昼のおかずのイワシを、 泥棒猫がくわえて逃げだした。
「そこにあるすりこ木を持ってこいっ。今日という今日は、張り倒してやる。」
どうやら、その猫は魚泥棒の常習犯らしい。
すると女房は、両手ですりこ木を、ていねいに神棚の下で三度も押し戴き
「待っといでよう。いま、あたしゃいただいているところだ」

※参考文献:『古典落語(上)』興津要編講談社文庫

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