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柳家小さん(五代目) 猫久(ねこきゅう)

      2014/05/27

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ある長屋に久六と言う八百屋さん。おとなしい人で、いつもニコニコ笑っている。猫みたいなヤツだ、猫の久さん、猫久なんてあだ名。
近所じゃ久なんて言わないで、猫、猫で通っている。このおとなしい猫久が、ある日、真っ青な顔をして、長屋へ飛んで帰ってきた。

「今日と言う今日は勘弁出来ねぇ。相手を殺しちまうんだから、脇差しを出せ。」と怒鳴り立っている。
この猫久のおかみさんが、普段からしっかりした女で、止めるかと思うと、箪笥の引き出しから脇差しを取りだし、神棚の前へピタリと座って、脇差しを三べん頂いて渡した。

これを見ていたのが熊さん。
「猫に脇差し渡しちめぇやがった。向こうのかかぁは変わり者だなぁ。」
「今頃気がついたのかい。あの女は長屋中きっての変わり者だよ。なにしろ、長屋で一番早く起きるんだ。女房のくせに、亭主より先に起きるのは女の恥だよ。朝、井戸端で会うと、おはようございます、なんて言いやがるんだよ、いやんなっちゃう。」
「お前の方が変わってるんだよ。俺は髪結床へ行ってくるから。」
「もうお昼じゃないか。おかずは鰯のぬただよ、味噌を私がこしらえといたから、鰯をこしらえておくれ。腐っちまうよ、い、わ、しっ。」

悪いかかぁをもらうと、六十年の不作だと、ブツブツ言いながら、髪結床へ来た熊さん、さっき目撃した猫が暴れ出した一件を、猫の目が光って、口が裂けて、火を吹いたなどと大げさに吹聴すると、それを聞いていた五十前後の侍。
猫股の変化が現れたなら、拙者が退治てくれると乗り出してきた。

「いえ、ウチの長屋に久六と言う者がおりまして、おとなしくて猫みたいな野郎だてんで、猫の久さん、猫久、猫々ってんで、本当の猫じゃねぇんで。その猫がどこで間違いを起こしたのか、相手を殺すから脇差しを出せと怒鳴ると、かみさんが、止めもしねぇで、脇差しを引き出しから出し、神棚の前へピタリと座って、脇差しを三べん頂いて渡したんで、狂人に刃物を渡すなんて、あきれたもんだと笑ったんで。」

「おかしいと申して笑う貴様がおかしいぞ。その趣意を解せぬとあらば申し聞かしてとらす。汝人間の性あらば魂を臍下(さいか)に落ち着けて、よおく承れ。日頃、猫とあだ名さるる程の人の良い男が、剣を出せいとは男子の本分よくよく逃れざる場合、朋友の信義として、かたわら推察いたしてつかわさんければならんに、笑うと言うたわけがあるか。また、日頃、妻なるものは、夫の心中をよくはかり、否とは言わず渡すのみならず、これを神前に三べん頂いてつかわしたるは、先方に怪我のあらざる様、夫に怪我のなきよう神に祈り、夫を思う心底、あっぱれ女丈夫とも言うべき賢婦人である。
身共にも二十五になる倅があるが、ゆくゆくはさような女を娶らしてやりたいものである。貞女なり孝女なり烈女なり賢女なり、あっぱれあっぱれ、実に感服仕った。」

頂かないかかあと、頂くかかあでは、頂く方が本物なんですかと言った熊公、家へ帰ると、早速、おかみさんを呼びつけた。

「汝人間か、人間なれば魂はさいかちの木にぶらさがる。日頃、猫なるものは、久六で八百屋で、どうもしようがねぇ・・・男子、男子であってみれば、よくよくのがれ、のがれ、ざるやと喧嘩をすれば。」

「そうかい、知らなかったよ。じゃああの笊屋さんと喧嘩したのかい?」

「そうじゃねぇ。ざるやと喧嘩をすれば、夫はラッキョウ食って我が家へ立ち返り、日頃妻なる者は、女でおかみさんだ・・・あっ、夫の真鍮磨きの粉を図り、神前に三べん頂いたのは、遠方に怪我のあらざら、あらざらざら。夫に怪我の無い様に、祈る神様仏様。」

「変な声をするんじゃないよ。」

「身共に二十五になる倅がおるが。」

「お前さん二十七じゃないか。二十五の倅がある訳ないだろう。」

「ああ驚いた。貞女や孝女、千艘(せんぞ)や万艘(まんぞ)。あっぱれあっぱれ、甘茶でかっぽれ、按腹つかまつったとくらぁ、どうだ。俺が何か持ってこいと言ったら、猫の所のかみさんみたいに、ちゃんと頂いて持って来い、分かったか。」

訳の分からない講釈をしている間に、台所の鰯を猫がくわえて飛び出した。

「泥棒猫め。おう、おっかあ、何か持って来い。早くしろ、早く!」

おかみさんは、すり鉢の中にあったすりこぎを手に持って、神棚の前へピタリと座って、すりこぎを三べん頂いて、熊さんに渡した。

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 - 柳家小さん(五代目)

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