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三遊亭圓窓(六代目) 写経猿

      2014/05/14

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今から千年前の寛平六(八九四)年。
越後の中条にある乙宝寺の行門和尚が毎朝、本堂で法華経をあげていると、裏山から夫婦の猿がやってきて、聞き入り、昼過ぎ、檀家の衆が集まってきて、写経を始めると、また、やってきて、その様子をジーッと見ておりました。

そのうちに木の皮を持ってきて、写経をねだるようになり、そのつど、和尚が書いてやると嬉しそうに山に帰った。
みんなはそれを木皮経(もくひきょう)、オスを法華(ほけ)、メスを経(きょう)と呼ぶようになった。
あれから、二ヶ月ほど経ち、法華経の写経も四の巻の終わり、五の巻にかかる頃、冬に入って雪が吹雪に変わった。

と…、ぷっつりと、夫婦猿が姿を現わさなくなった。
十日ほどして、和尚は檀家の一人、茂十じいさんを伴って、裏山に捜しに行き、穴の奥で法華と経は、木皮経をしっかりと握って抱き合って死んでいた。
和尚と茂十は二匹の亡骸を抱きかかえて山を下り、丁重に葬って供養をし、和尚が木皮経を握って抱き合った夫婦猿の木像を彫ると、「離れざる」ということで、これが大層な評判となった。

あれから、四〇年経った、ある日。

「お写経をさせていただきたく」と、四〇歳前後の旅の夫婦連れがやってきて、本堂で写経を始めた。
小僧が二人にお茶を運ぼうと、ひょいと見て、驚いた。
二匹の猿が写経をしているではないか。
これを聞いて駆け付けた和尚もびっくり。

和尚はなぜか、珍念に「他言するな」と言っただけで、庫裏へ戻った。
夫婦は毎日必ず来ては写経をして帰ります。
四の巻が終わり、五の巻にかかって二人の手がピタッと止まった。
二人は抱き合って体を震わせて泣き出した。
和尚が問うと、夫は昔を語り始めた。

「われら二人は四〇年前の夫婦猿でございまして、人間に生まれ変わったのでございます。私は三年前、越後国司に任ぜられ、都より赴任しました藤原子高朝臣にござります。このお寺のことを知り、伺えたました次第でござりまする」

「雪の日以来、姿を見せなかったが?」

「はい。あの雪の日、お寺へ行く途中、妻は足を滑らせて、深手を負い、穴に戻りましたが、飢えと寒さのため、木皮経を握ったまま抱き合って息を引き取りました」

「それで、今、五の巻で写経の筆も留まったのじゃな。あの折り、抱き合ったあなた方を抱えて山を下りましたのが、わしともう一人。もうあの世に逝ってしまったが、今、毎日、あなた方の世話をしております、この珍念のじいさんです。あなた方お二人、他の者には人間としか見えませんが、縁あるわしと珍念には昔の夫婦猿に見えたのじゃ。わしも、三宝のありがたさを改めて知りました。あなた方もこの先、法華経の五の巻からのお写経をここでなさいませ」

「三年の任期が切れましたので、明日、都へ帰らなければなりません」

「さようか。では都へ戻って続けなされ」

本堂を出て参道を歩む二人は振り返り、振り返り、丁寧に何度も何度もお辞儀を繰り返した。そのたびに、本堂から手を振る和尚、珍念……。境内の鳥たちも名残を惜しんだのでしょう。
高い杉の木の上で、コノハズクが、
「ブッポウソー(仏法僧)」

「おお。珍念、聞いたか。コノハズクが三宝を唱えて鳴いておる」

「和尚さま。向こうの梅の小枝で、ウグイスが」

「ホー、ホケキョウー(法華経)」

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 - 三遊亭圓窓(六代目)

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