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立川談志/富久

      2020/11/06

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ある年の国立劇場演芸場で開かれた「談志ひとり会」で「富久」を聴いた。
幇間の久蔵がひと晩に2度の火事に遭い、はじめはしくじっていた旦那の家に火事見舞いに出かけ、そこで出入りを許されるのだが、そのあとの火事では自分の家が焼かれてしまい、悲喜こもごもの人生を歩きはじめる。

そしてその後、暮れの富くじで千両富を当てるものの、富札を焼失してしまっていたために、再び歓喜の瞬間からドン底へ突き落とされる。落胆して寒風が吹く町中を歩く久蔵は、思わず自らの不運な人生を嘆くのだが、談志はこの場面で久蔵ににぎりこぶしを噛まして見せた。久蔵の悲哀がどんな台詞より伝わってくる演出だった。

そして、どんでん返し。火事場から神棚が運び出されていて、富札は無事だった。
「うまくやりやがったなァ、この暮れに千両たァ」「へえ、大神宮様のおかげで、町内へお払い(お祓い)ができます」とサゲると、それまで水を打ったように静かだった客席から割れんばかりの拍手が起こった。

「ひとり会」では、いつも、このあと幕を下ろさせずに、ひとしきりいまの口演の感想をしゃべるのが通例だった。
このとき、談志は額の汗を拭いながら「久蔵に富が当たって、本当によかったと思います」と言った。
それはまさしく観客の気持ちを最も代弁したひと言だったから、わたしはそれを聞いて胸が熱くなり、涙がこぼれた。
すぐに楽屋へ廻り、師匠に「なぜ、久蔵に富が当たって、本当によかったと思いますと言ったんですか?」と訊いてみた。

すると、師匠は「出来がいい高座んときは、登場人物を自在に操っている自分がいるのがよくわかる。
この監督、演出している談志が、久蔵に千両富を当てさせてやりたいと思ったので、そう言ったの」と答えて下さった。
まさに一期一会のスリリングな落語で、わたしはこの晩の「富久」を20年経った今でも忘れない。

※山本益博氏ブログより引用
http://msh.weblogs.jp/season/2011/12/%E8%BF%BD%E6%82%BC.html

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