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八代目 橘家圓蔵(月の家圓鏡)湯屋番

   

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湯屋番(ゆやばん)は古典落語の演目の一つ。
『滑稽噺』の一つで、落語によく出てくる【道楽者の若旦那】が主人公。
タイトルの『湯屋番』は【湯屋の番台】の略。
江戸時代から続く古い話で、明治の大看板、初代三遊亭圓遊が得意としていた。
その後は代々柳家一門が得意とし、特に3代目柳家小さんが現代に通じるスタンダードな型を作った。
現代では10代目柳家小三治やその弟子である柳家三三が手がけている。
また、3代目笑福亭仁鶴が大阪に持ち帰りそのまま『湯屋番』の演目で演じている。

あらすじ

吉原通いに夢中になった挙句に勘当され、出入りの大工・熊五郎宅の二階に居候中の若旦那。
しかし、まったく働かずに遊んでばかりいる為居候先の評判はすこぶる悪い。
とうとうかみさんと口論になり、困った棟梁は若旦那にどこかへ奉公に行く事を薦めた。
「奉公ですか? 良いですねぇ、ご飯がいっぱい食べられる」
『それでは、家で殆ど食べさせてないように聞こえるじゃないですか』と文句を言う熊五郎。
「もちろん頂いてますよ、『死なない呪い』程度にね」
何でも、熊五郎の外出中にご飯を食べようとすると、必ず御かみさんが傍に張り付き、給仕と称して嫌がらせをすると言うのだ。

「お櫃のふたを開けるとさ、おひつを濡れたしゃもじでピタピタと叩き、平たくなった上っ面をすっと削いで茶碗に乗せるんだよ。見かけはいっぱいだよ、だけど中身はガランドウだ、お茶をかけたらすぐ終わり!」
それじゃあ可愛そうだ。何とかすると言い、改めて奉公の話をすると
「日本橋の槇町に奴湯っていう銭湯があるんだ。あそこで奉公人を募集してるって話だから、行ってみようと思うんだ」
と言う返事。

「あそこの女将が美人なんだよ。奉公している内にあそこの旦那が亡くなるだろ? 死ななかったら僕が締め殺すさ。で、その跡継ぎに僕が納まって贅沢三昧をするんだ」
何だか妙な了見だが、行ってくれるだけましだと思った熊五郎であった。

さて、熊五郎に紹介状を書いてもらい、意気揚々と湯屋にやってきた若旦那。やって来るなり女湯へ飛び込み番台の主を仰天させた。
度肝を抜かれた主人が、『とりあえず外廻りからやって貰いましょう』と言うと
「札束をカバンにつめて温泉地を巡って研究して来れば良いんですか?」
という返事。木屑拾いだと分かると
「色っぽくないですねぇ。汚い股引をはいて汚い半纏を着て、汚い手ぬぐいで頬かむりして汚い大八車なんか引いちゃって。中村歌右衛門のやりそうもない役ですね」
と即却下。
では煙突掃除でもと言うと
「弁天小僧菊之助…ならぬ煙突小僧煤之助? 市川海老蔵のやらない役ですね」
と、これも拒否。じゃあ何が良いのか聴いてみると、何と番台をやりたいという返事。要は女湯が見たかったというわけだ。
『素人には無理だ』という主を強引に拝み倒し、【主人が昼飯に行く間の代役】として若旦那、待望の番台へ。
ところが、当て外れで女湯は空。反対に男湯はギッシリ・・・。

「店じまいしたら戸を釘付けにして、女湯専門の銭湯に改造しちゃお」
がっかりした挙句、とうとう現実逃避を始めてしまった。
女湯にやってきた女が僕に惚れるんだ。年増…は興味がないし、娘は別れるときにごねて大変だ。だとすると似合いなのは…何処かの旦那が囲っているお妾さんかな。
連れの女中に「ごらん。ちょいと乙な番頭さんだね」なんてね。
気を引く為に糠袋の一つもプレゼントすると「ぜひ遊びにいらっしゃい」。いいねぇ…。

何気ない風を装って家の前を通りかかる。すると女中が見つけて「姐さん、お湯屋の番頭さんですよ」
惚れていた男がやってきたんだ、女は泳ぐようにして表へ出てくる。
「お上がりあそばして。今日はお休みなんでしょ」
「へい。釜が損じて早仕舞い」色っぽくないねぇ、「墓参りに」って言おう。
「お若いのに感心なこと。折角だからあがって下さい」
「いえ困ります」
「良いからおあがりィ」
「あの野郎、番台で自分の手を引っ張ってるよ」

気になったお客が番台に集まってきてしまった。
盃のやりとりになり、女が「今のお盃、ゆすいでなかったの」と、すごいセリフを言ったりして。じっとにらむ目の色っぽさ、困ったなぁ…。
「おい。あの野郎、自分で自分のおでこ叩いてるよ」
長居すると嫌われるから帰ろうと…じゃ詰まらないから、『やらずの雨』で帰れなくなっちゃう事にしよ。そのうち雷が鳴り出す、怖くなった女は女中に蚊帳をつらせて中で震えてる。

「こっちへお入んなさいな」
女に言われて中へ入る。途端に雷がガラガラドッシン!!
「あの野郎、番台から転げ落ちちゃったよ」
呆れた一人の客が横を見ると、顔中血だらけになった奴がいたりする。
「如何したんだよ、あんた」
「あんまりあいつが下らない事言ってるんでな、石鹸と間違えて軽石で顔こすっちゃった」

女は癪を起こして気を失う。盃洗の水を口移しにして含ませると、女がぱっちり目を開いて「今のは嘘」と色っぽく。
ここでとうとう芝居がかりになってしまう。
「雷さまは恐けれど、二人の為には結びの神」
「ならば今のは空癪か」
「嬉しゅうございます、番頭さん」
「馬鹿野郎!! いい加減にしろ!!」

ここでとうとうキレた客に殴られてしまった。
「俺は帰るんだ、下駄は如何した!?」
見ると、犬でもくわえていったのか何処を探しても見当たらない。
「参りましたねぇ。じゃあ、そっちの高そうなのをお履き下さい」
「これか? これ、てめえの下駄か?」
「いえ、中のお客の誰かのでしょう」
「おい。出てきたら大変だろ?」
「いいでんすよ。順ぐりに履かせて、一番おしまいは裸足で帰しますから」

プロフィール

8代目橘家 圓蔵(たちばなや えんぞう、1934年〈昭和9年〉4月3日 – 2015年〈平成27年〉10月7日)は、日本の落語家。本名、大山 武雄(おおやま たけお)。落語協会所属、同協会相談役。出囃子は『虎退治』。

前名の5代目月の家圓鏡(つきのや えんきょう)も広く知られた。

3代目三遊亭圓歌(前名:2代目三遊亭歌奴)、5代目鈴々舎馬風(前名:柳家かゑる)らと並び、前名の月の家圓鏡(つきのや えんきょう)が未だに通る点で特筆に値する。

1960年代から1980年代にかけて「ヨイショの圓鏡」の異名で、落語家としてもラジオスターとしても一時代を築いた。
徹底的に明朗かつ座持ちの良い芸風で、座敷(旦那衆相手に幇間よろしくヨイショで稼ぎまくっていた)のみならず、高座、ラジオ、テレビ、CMを問わず大活躍し、圓鏡の声が聞こえない日はなかったほど。7代目(自称5代目)立川談志を兄貴分として信頼していた。

持ち前の頭の回転の速さからなぞかけを得意とし、テレビやラジオなどの放送番組で人気を博す。この時代にラジオ台本を多く手がけていたのが半村良(作家としてはまだ短編を時折発表する程度だった)で、交友は半村の晩年まで続いている。

得意のなぞかけから、自宅の表札の裏に「そのココロは?」と書いてあるとも噂された。
頓知が利き、大喜利でもクイズでも逸早く回答して、
「早いが取り柄の出前と圓鏡」「早いと言えば、圓鏡か新幹線か」と自称した。

強度の近視のため、黒縁眼鏡を掛けたまま高座に上がっていたが、これは従来の寄席演芸のタブーを破るもので、トレードマークになった。

兄弟子の初代林家三平が「ヨシコさん」で売ったのに対抗し、愛妻の節子夫人(2010年6月に82歳で死去。
圓蔵が前座時代、師匠に命じられ大師匠の8代目桂文楽宅に住み込み内弟子修行に出された際、そこで女中をしていた)をネタにした「ウチのセツコが」というフレーズが大いにウケた。

1978年に勃発した落語協会分裂騒動では師匠の無節操な言動に翻弄され、その後も落語協会復帰は許されたものの、実質的な圓蔵一門の看板としてその後の後始末などで大変な苦労をする羽目になった。

その師匠が没したわずか2年後に、圓蔵の名跡に付いてしまった不始末の悪印象の払拭を期待されて、異例の性急さで8代目圓蔵を襲名。
次第に寄席に比重を移し、総領弟子の6代目月の家圓鏡以下、多数の弟子を抱える大御所的存在として君臨している(同一門は本人に因み「ヨイショの一門」と呼ばれる)。

CMキャラクターとしても、1960年代から1980年代初頭までお茶の間でお馴染みの存在になっていた。ストレスとスランプから脱毛症に罹り、一時はかつらの常用を余儀なくされる。
大手男性用かつらメーカー2社から家1軒分とも言われる巨額のギャラでCM出演を持ち掛けられたが、思案の末断わっている。

略歴

1952年12月 – 紙芝居屋を経て、4代目月の家圓鏡(後の7代目橘家圓蔵)に入門。前座名は橘家竹蔵。
1955年3月 – 二つ目昇進。橘家舛蔵と改名。
1965年3月 – 真打昇進。5代目月の家圓鏡を襲名。7代目(自称5代目)立川談志、5代目三遊亭圓楽、3代目古今亭志ん朝と共に「落語四天王」と呼ばれた。
1978年 – 文化庁芸術祭優秀賞受賞。
1982年10月 – 8代目橘家圓蔵を襲名。
2006年 – 落語協会相談役に就任。
2012年11月 – 江戸川区文化賞受賞。

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